田中博見講演『Raspberry Pi(OSH)の産業利用の現状』

2017714日、デバイスWebAPIコンソーシアムが開催する第7回技術ワーキンググループ会合にて、株式会社ビズライト・テクノロジー代表取締役社長・田中博見氏が『Raspberry PiOSH)の産業利用の現状』と題した講演を行いました。

デバイスWebAPIコンソーシアムは、スマートフォン等に接続されるIoT機器、ウェアラブル機器等の多様なデバイスをより使いやすくするWebAPIの普及・利用促進に向けた議論、検討および情報・意見交換等を行うことを目的としています。講演では、IoTに関する機器の開発において、Raspberry PiArduinoに代表されるオープンソースハードウェア(OSH)の現状、産業利用に関してのポジティブ要素とネガティブ要素、産業利用のためには何が必要であるのかなどを解説しています。

IoTの世界ではオープンソースハードウェアがほぼ主流に

田中氏はまず、Arduinoがすでに200万台以上、Raspberry Pi1100万台以上の出荷実績があることに触れ、このように述べました。

IoTの世界ではオープンソースハードウェアがほぼ主流になってきている。オープンになっているハードウェアを積極的に使い素早くプロトタイプを製作し、場合によっては製品化まで突入しましょうという流れになってきている」

製品を試作、開発し、製品化していく方法としては3つ考えられます。1つめは、回路を最初から設計して試作から製品化まで行う方法。この方法では、開発に高い技術力が必要であり、内部で製作するとしても、外部に委託するとしても、開発費や期間が大きくなり、例えば3000台以下のそれほど多くはない台数での開発では採算が合わなくなります。2つめは、産業用に販売されているハードを使用して行う方法。この方法の場合、カスタマイズをするために販売しているメーカーとの秘密保持契約を結ぶ必要があり、実際に希望する仕様で動くかなどの事前情報が少ないため、開発に時間や費用がかかります。そのため、例えば1000台を切るような少量での開発では採算が合わなくなります。3つめが、オープンソースハードウェアを使う方法です。オープンソースハードウェアならば、最初から回路を設計する手間はかからず、すでに多くの情報があるので、即座にプロトタイプの開発に着手でき、時間とコストが大幅に削減されます。

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導入におけるネガティブ要素は1つだけ「誰が責任を取るのか?」

次に田中氏はオープンソースハードウェアとオープンソースソフトウェアの導入において、ポジティブ要素とネガティブ要素についてこう述べています。

「まず、オープンソースハードウェアも、オープンソースソフトウェアも、ポジティブな部分はどこか。情報量が圧倒的に多い。特にハードウェアの場合、オープンな情報というのは非常に重要。産業用のハードを買ってきても、情報量の少なさという問題がある。秘密保持契約を結び、開発環境をインストールして、デバイスドライバを探してと、動かすのに1か月ぐらい簡単にかかってしまう。プロトタイプを作るのにもう12か月。オープンソースハードウェアなら、世界中のユーザーによりさまざまな使い方がされていて、いろいろなところに情報が転がっている。デバイスドライバもすでに多く作られていて、書き換えるにしても情報がオープンになっているので、力のあるプログラマーなら書き換えられる可能性が高い。プロトタイピングの入手性が非常に高く、スピード感が違う」

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これに対して田中氏は、ネガティブな要素についてはこう述べています。

「誰が責任を取るのか? これだけ。上司が『誰が責任取るの?』と聞く。実験さえも入れない。20年前のオープンソースソフトウェアの状態と一緒……これが日本のIoTの現状」

今から20年前の90年代中頃は、オフィスや家庭でコンピュータが普及し、インターネットの利用者も徐々に増えてきた時代。1991年にリリースされたLinuxは、当初は一人の学生が中心となって開発されたものでした。一部の技術者がその能力を高く評価していても、実際に導入となると、誰が作ったかもわからないもので誰が責任を取るのかと、上層部から反対意見が出されて導入が見送られることが数多くありました。今ではオープンソースソフトウェアとして、世界中のサーバーの大半がLinuxベースで稼働しています。田中氏は「その当時、20年後こうなるなんてほとんどの方は思っていなかった。ハードウェアもいずれほとんどのところでオープンソースハードウェアになっていると想像している」と述べています。

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しかし、田中氏は続けてこうも述べています。

「とはいえ、『誰が責任を取るのか』というのはごもっともな質問。『バグが出ました』というレベルなら『すぐに直します』と応えられるが、ハードウェアはときどき暴走するなど、素人でもわかるような不具合が存在する。ネームバリューがあり、産業用として実績のある産業用ハードに行くのは当然のこと。我々もRaspberry Piが使えるのではと、自社のデジタルサイネージのプレーヤーとして使ってみようとやってみたが、そのままで使い始めた当初はさまざまな問題が起き始めた。ひとつは電源の正しいシャットダウンの機構がないので、電源の線が抜ければOSが正しくシャットダウンされずに電源が落ちる。これによりSDカードなどのストレージがクラッシュする。ここが産業用として使う場合の一番の問題点で、そのままでは使えない」

ArduinoRaspberry Piなどのオープンソースハードウェアは、そもそも教育用に開発されたもので、そのままでは産業用に耐えられる機能を備えていなかったのです。

産業用に耐える性能と信頼性を追加

これに対して株式会社ビズライト・テクノロジーでは、産業用として耐えうる機能を追加し、各種の試験を行うことで安定性や信頼性も高めたArduino互換のIoT向けボード「BiZduino」と、Raspberry Pi搭載IoTゲートウェイ「BHシリーズ」を提供しています。Raspberry PiArduinoでは、ケースがなく基板がむき出しなので、熱や電気に対する堅牢性は全くありません。通常RTCを備えていないので、動作ログの取得や、タイマー動作を内部的には行えません。バックアップも含め電源はなく、突然の電源消失によるシステムダウンの危険が常にあります。産業用途に使用するにはあまりにも脆弱で機能不足といえます。

AIを導入したので、安定的にデータを長い期間取得しないといけないというようなところでは、1日たりともシステムを止めるわけにはいかない。実証実験ならまだしも、お客様のところに入るシステムならば止めるわけにはいかない。そこで、Raspberry Piをプロトタイプで使用するとうまくいくが、現場で正しくシャットダウンを行わず、いきなり電源ケーブルを抜かれる、SDカードが次々クラッシュする、電磁弁を制御してポンプを制御する際、電磁弁がノイズを出すので電磁弁がONOFFしただけでRaspberry Piが暴走する……Raspberry Piで試作してうまくいったものの、お客様のところに入れるとなった段階で困るという例は今も多くある」

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BHシリーズ」は、これらの問題に対し、金属筐体によるケーシングとグランド処理により、サージ、静電気耐性をフィールド機器並みに強化、GPIOポートのノイズが数十mVレベルに低減されています。大容量コンデンサによる電源断対策も施され、OSを安全にシャットダウンすることが可能。独自電源回路かRaspberry Piピンヘッダ経由で5Vを安定供給。ボタン電池駆動のRTCを搭載することによりオフラインでのリアルタイム管理を可能にしています。

BiZduino」では、Wi-Fiモジュールとして技適認証取得済みのESP-WROOM-02を搭載し、802.11 b/g/n2.4GHz)の無線LANに対応。TCP/IPのプロトコルを意識することなく、ATコマンドを使って制御できます。電源部は5V端子から電源供給ができ、Wi-FiモジュールESP-WROOM-02への給電には専用回路が使われ、安定した電源供給が確保。また、バックアップ電池付きRTCを搭載し、I2Cで制御可能。Arduino互換のため、Arduino IDEからプログラムの書き込みが可能です。さらに、BHシリーズもBiZduinoも、耐熱、耐電、耐湿などの環境試験を繰り返し実施して問題がないことを確認済。これらにより、Raspberry PiArduinoだけでは足りなかった産業用に耐える拡張性、堅牢性、安定性、信頼性を確保しています。

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田中氏は「IoTはボードを選んだりするのは目的でなく手段。ビジネスモデルを作る方が先。早くいかないと遅れる。いつまでもハードの部分で足踏みしているようでは、日本的にも産業界的にもよろしくない。オープンソースハードウェアをオモチャと言わずに、20年前のオープンソースソフトウェアを反対した人にならないように、スピード感を出す場面では使ってほしい」と締めくくっています。

株式会社ビズライト・テクノロジーは、ハード、ソフト両方の面で多くの経験と実績を持ち、ArduinoRaspberry Piなどのオープンソースハードウェアを用いた開発において、経験と技術により、開発をサポートします。お気軽にご相談ください。

語り手

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株式会社ビズライト・テクノロジー
代表取締役社長 田中 博見
1962年北海道旭川市出身。
大手家電メーカー系の工場でファクトリーオートメーション分野に従事したのち、コンピュータ業界へ。 8ビットから16ビットマイコン時代、ハードウェア設計からファームウェア開発までを経験。 その後はLINUXをベースとしたWEBソリューションに注力すると同時に、IPOを経験すると、 ECサイトの売上向上のためのビッグデータ解析や、BPRなど経営コンサルタント的な活動が増えている。 現在もっとも興味があるのはフィジカルコンピューティング。
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著者情報

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馬場 吉成
webライター。光ファイバー、半導体関連の装置の機械設計や
特許技術者の経験があり、ネットで各種技術を紹介する記事を
多数執筆。他にも日本酒、料理、マラソンなど幅広い分野で
多数の記事を企画、執筆しています。
ライターページ http://by-w.info/

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