オープンソースハードウェアの可能性……BHシリーズはなぜ生まれ、多くのユーザーに受け入れられたのか

IoTデバイス向けのワンボードマイコンとして注目を集めるRaspberry Pi。もともとは子供の教育用として開発されたものでしたが、今では産業用としても数多く出荷されています。そのRaspberry Piを、株式会社ビズライト・テクノロジーのIoTゲートウェイBHシリーズではなぜ採用したのか? Raspberry Piの産業用としてのポテンシャルやBHシリーズの今後の展望など、同社代表取締役社長・田中博見氏にお聞きします。

産業用ボードの問題点……ブラックボックス化された開発環境

Raspberry Piは、2012年にイギリスで設立された非営利財団「Raspberry Pi Foundation」により子供の教育用として開発されました。子供のコンピュータ開発スキルの向上を目的として、プログラミングが可能で、多くのプログラミング言語に対応しています。また、子供たちが学校に持っていけるように小型で丈夫、かつ教科書と同程度の安価なものです。電源やHDDはなく、ケースもありませんので、基板がむき出しの状態です。標準状態では、電源はUSBポートから供給し、micro-SDをストレージとして使用します。

しかし、オープンソースのOSであるLinuxなど、各種のOSを使用することが可能です。HDMI出力によりフルハイビジョンの画像も流せます。GPIOによりさまざまな機器との接続も可能。CPU・GPUの性能も、最新のPCには及びませんが、フルハイビジョン動画の再生や各種計算処理に必要な性能を十分に備えています。そして、最も注目すべきところは、ハードウェア仕様が公開されているオープンソースハードウェアという点。世界中の人と開発情報を共有できるなど、柔軟な開発環境を備えています。

BHシリーズにRaspberry Piを採用するにあたって、田中氏は「当初は産業用ボードを検討していた。多くの人が最初に思うように、本当にこれ使えるのか? こんなの使って大丈夫なのか? という立場だった」といいます。

もともとBHシリーズは、デジタルサイネージ用のプレーヤーとして開発が行われていました。デジタルサイネージではフルハイビジョンでの動画の再生や、ソフトの入れ替えの必要があります。また、デジタルサイネージの置かれる環境は、水分や衝撃、高温にさらされる屋外であることも多く、高い堅牢性が要求されます。システムに詳しくない人が扱う場合も想定され、急な電源の消失によるシステムダウンが起こる場合もあります。動画の再生では通常のPCを用いれば簡単ですが、堅牢性や安定性に問題が出ます。

逆に産業用のボードを用いた場合は、再生機能やソフトの入れ替えなどに問題が出てきます。また、産業用ボードは高価であって、動作確認時に実際に購入して行うには負担が大きく、仕様はブラックボックス化されていて動作状況の情報を共有する場も限られます。田中氏はいいます。

「車に例えると、エンジンの排気量も、ガソリンで動くかどうかもわからない。タイヤのサイズすらわからないものを採用できるのだろうか?」

Raspberry Piの産業用としてのポテンシャル……採用にあたっての問題点は?

それに対し、Raspberry PiはUSB・HDMI・GPIO等の汎用的なインターフェースを備え、フルハイビジョンでの動画を再生できるGPUも備えています。価格が安く、開発環境もオープンで、ハードもソフトも含め動作やカスタマイズに関するさまざまな情報を簡単に得ることができます。必要不可欠な機能を満たす物を探した結果、合理的にRaspberry PiをBHシリーズへ選択する結果となったのです。

しかし、Raspberry Piを採用するにあたってさまざまな問題点もありました。そもそも教育用のためケースはなく、堅牢性に関しては全くありません。バックアップも含め電源はなく、突然の電源消失によるシステムダウンの危険が常にあります。また、Raspberry Piでは通常RTCを備えていないので、動作ログの取得や、タイマー動作を内部的には行えません。広く産業用途に使用するにはあまりにも脆弱で機能不足だったのです。

BHシリーズでは、これらの問題に対応するため各種対策が施されています。独自電源回路かRaspberry Piピンヘッダ経由で5Vを安定供給。ボタン電池駆動のRTCを搭載。金属筐体によるケーシングとグランド処理。大容量のコンデンサによる電源断対策。これらにより、Raspberry Piだけでは足りなかった産業用に耐える拡張性、堅牢性、安定性を確保しています。

問題点の解決により広がる用途……エンターテインメント、工場から農業、土木へ

問題点を解決することで、BHシリーズはすでに2000台以上出荷され、さまざまな用途に使用されています。例えば、エンターテインメント分野ではKAMARQ社のサウンドテーブルという商品に採用されています。サウンドテーブルは天板にスピーカーが内蔵され、天板全体から音が出るもので、天板の側面についた電源とUSB端子により携帯の充電、調理家電の使用が可能。さらにスマートフォンと専用アプリの連携で好きな曲や、現在地の天候に合った曲を流せます。このサウンドテーブルのIoTゲートウェイとして、BHシリーズが採用されています。

ほかにも、さまざまな業種の工場内でも採用されているBHシリーズ。装置の監視用、製品チェックの自動化、生産管理のシステムなど、その用途は多岐にわたります。実際、Raspberry Piに関しては、BHシリーズに限らず大手家電メーカーでもすでに採用されていて、工業分野での採用が今後一段と進むと考えられています。

さらに最近では、BHシリーズは屋内だけにとどまらず、その堅牢性から屋外での用途にも使用されはじめています。例えば、農業分野。ビニールハウス内の温度や湿度、明るさの制御。田んぼや畑の水量管理。生育状況の監視。農業は広大な敷地を少人数でチェックしている場合も多く、IoTと農業を結びつけることで負担が軽減され、より強い経営基盤を作れる分野といわれています。その際、センサーやIoTデバイスは屋外に設置されることが多くなるので、屋外では「水やホコリなどに対する耐水・耐塵」「落雷から装置を守る耐電」「資材や獣による衝撃に対しての耐衝撃」への高い堅牢性が求められます。BHシリーズはすでにこの分野でも導入実績があり、高い堅牢性が確認されています。

また、屋外の使用では土木分野でもBHシリーズは採用されています。土木工事の現場では事故防止のためにセンサーが使用されていますが、そこから得られたデータはネットを介して遠隔地の管理者へ送られ、各種の解析が行われています。このときのIoTゲートウェイとしてBHシリーズが採用されています。工事現場は水や砂からの汚れを受けやすく、硬い工具による衝撃や農業同様に落雷の問題も考えられます。このような環境下でも、BHシリーズは搭載されたRaspberry Piの機能を十分に発揮できる性能を有しているのです。

田中氏は、BHシリーズの今後の展望として、さらなる普及を目指し、機能ごとにカスタマイズしたローコストタイプの製作を視野に入れているといいます。少量多品種から中量多品種、大量生産手前までをターゲットにしたバージョンや、3Gにダイレクトに接続できる通信インターフェースを持ったバージョンなど、細かい要望に対応できる製品をリリースしていくということですので、今後のBHシリーズに期待したいところです。

語り手

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株式会社ビズライト・テクノロジー
代表取締役社長 田中 博見
1962年北海道旭川市出身。
大手家電メーカー系の工場でファクトリーオートメーション分野に従事したのち、コンピュータ業界へ。 8ビットから16ビットマイコン時代、ハードウェア設計からファームウェア開発までを経験。 その後はLINUXをベースとしたWEBソリューションに注力すると同時に、IPOを経験すると、 ECサイトの売上向上のためのビッグデータ解析や、BPRなど経営コンサルタント的な活動が増えている。 現在もっとも興味があるのはフィジカルコンピューティング。
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著者情報

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馬場 吉成
webライター。光ファイバー、半導体関連の装置の機械設計や
特許技術者の経験があり、ネットで各種技術を紹介する記事を
多数執筆。他にも日本酒、料理、マラソンなど幅広い分野で
多数の記事を企画、執筆しています。
ライターページ http://by-w.info/

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