IoTの潮流 ~「モノからコトへ」インダストリー4.0の世界~(上)

3回にわたってお送りする「IoTの潮流」。第1回となる今回は、2016年1月に開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)でも主要テーマとして議論された「インダストリー4.0=第4次産業革命」について詳しく解説していく。ビッグデータと人工知能により情報を処理・活用できるようになるなかで、センシング技術のようにこれまでの常識を覆す新技術が生まれている。その先にあるのは、人材不要の世界……「インダストリー4.0」では何がどのように変化していくのだろうか。

インダストリー4.0とは「モノからコトへのシフト」

あなたの会社は、いま世界中で起きている「革命」を乗り越え、その果実を得られているだろうか。それとも、渦に飲み込まれて滅びゆくのだろうか……。

世界中の経営者が注目している議題がある。「インダストリー4.0=第4次産業革命」だ。2016年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)では主要テーマのひとつに取り上げられ、活発な議論が交わされた。

これまでの産業革命は、第1次では蒸気機関による機械化、第2次では電力化、第3次ではオートメーション化で生産効率を大幅に向上させ、そのたびに社会は大きく変化してきた。そしていま、あらゆるものがネットにつながるIoT(Internet of Things)やビッグデータ解析、人工知能などのテクノロジーが生まれ、それらが第4の産業革命と呼ぶにふさわしい飛躍的な生産性向上をもたらすと期待されている。

ドイツでは、これらのテクノロジーを社会基盤とすることで、カスタマイゼーション生産を実現しようと国を挙げて取り組んでいる。実現すれば、低コストでの1種1品生産が可能になり、大量生産の時代は終焉を迎える。工業が変わるだけでなく、社会の価値基準を変えるパラダイムシフトになるだろう。

インダストリー4.0は、それを実現するテクノロジーと影響範囲が多岐にわたるため、第1次産業革命の「蒸気機関」のようにひと言で表すのは難しい。ただ、キーワードをひとつ挙げるならば「モノからコトへのシフト」ではないだろうか。

革命する側になるか退場を強いられるか

アメリカのゼネラル・エレクトリック(GE)は航空機のエンジンを供給する一方、センサーで取得した運航データやエンジンの動作データを解析し、より一層コストを下げる航路や運航ノウハウを航空会社に提供している。これによって伊アリタリア航空は、年間1500万ドル(16億8600万円)ものコスト削減を実現した。ライバルがエンジンを販売しているなかで、GEはコスト削減つまり業務改善、経営改善を販売している。エンジンはオマケといっても過言ではない。エンジンというモノから、経営改善というコトにシフトしている。

産業革命は人類の進歩である半面、厳しい時代でもある。あなたの会社のライバルが、明日にも1種1品生産を実現し、モノではなくコトを売るようになるかもしれない。そのとき、あなたの会社は生き残れるだろうか。革命する側になるのか、受け身となって退場を強いられるのか、私たちは岐路に立たされている。ダボス会議で注目されたのも、経営者たちの深刻な危機感の表れといってよい。

ビズライト・テクノロジーは、IoTソリューションの提供を通じ、インダストリー4.0に臨む各社の開発パートナーとしてさまざまな事案に取り組んでいる。表向きには見えにくいかもしれないが、水面下で着実に時代は変わりつつあることを日々実感している。

ビッグデータと人工知能が情報を昇華

あらゆるものがネットにつながるIoT(Internet of Things)や、ビッグデータなどの言葉が巷にあふれている。さらに、囲碁の対局コンピューター「AlphaGo」がプロ棋士を破った衝撃で、人工知能にも関心が高まっている。それらと比べると地味だが、第4次産業改革の最も基礎的な要素技術となるセンサーと、その周辺技術にも大きなビジネスチャンスがある。

IoTは、個別の技術や製品を表すものではない。第4次産業革命の「モノがコト化する」を実現する設計思想であり、それによって組み立てられた構造体だ。例えば体重計は、体重を量る「モノ」だ。

ところがインターネットに接続され、そのデータをさまざまな形で活用できるようになればどうだろう。体重増減グラフを作ってダイエットのモチベーションにつなげたり、データに基づいた健康管理アドバイスを行ったりと、さまざまなサービスにつながる。統計で取り扱えるボリュームがあれば、マーケティングデータとしての活用もあり得るだろう。

このように、世の中のさまざまなモノがインターネットにつながったセンサーとなってデータが収集され、ビッグデータ処理や人工知能が正確かつ高度な情報へ昇華させ、コトとして活用する。この構造そのものがIoTだ。

日進月歩で発展するセンシング技術

このIoTの基本要素技術で、重要なファクターのひとつがセンシング技術だ。これは「直接的センシング技術」と「アルゴリズム(計算)型センシング技術」の2つに大別できる。

前者は、測りたい物理量をそのまま計測できるセンサーだ。体温計に組み込まれた温度センサーは、ほぼ直接的に「温度」を測れる。

一方アルゴリズム型は、測れたと“みなす”技術だ。代表的な例として自転車の速度計が挙げられる。自転車のスポークに小さなタグを装着し、フレーム側にはタグの接近を感知するセンサーをつける。感知のたびに信号をコンピューターに送り、単位時間内の信号発信回数を数えることで自転車の速度がわかる。

移動速度を直接計測しているわけではないが、アルゴリズムで速度を導いている。スマートフォンが「持ち主が歩いている」「階段を上っている」などと判断できるのも、加速度センサーや気圧センサーなどのデータをもとにアルゴリズムが導いているからだ。

直接的センシング技術は、多額の投資が必要なうえに画期的なものは10年にひとつの頻度でしか現れないが、アルゴリズム型は多くのプレーヤーが参画し、日進月歩の発展を見せている。さらに、単純な物理量を人間が知りたい情報に変換するアルゴリズムは、ビッグデータ解析や、過去の行動結果や経験といった人の思考の基となる要素を組み込む「ディープラーニング」、機械学習などの機能を搭載した人工知能が自動的に開発していくことになり、想像を絶する速度で進化する。第4次産業革命におけるビッグプレーヤーのいくつかは、この分野から生まれることになるだろう。

「インダストリー4.0」で在庫管理が不要に?

あらゆるものにセンサーがつき、サーバーがさまざまな処理をする……。変わっていく現場を具体的に想像してみよう。オフィスや個人の家に、常備薬を箱に入れて置かれているのを見かけたことがあると思う。初期コスト負担はなく、いろいろな種類の薬がある。定期的に営業マンが訪問して使用した薬品代を清算し、薬を補充する。

筆者が考える未来はこうだ。箱の代わりに自動販売機のようなものが置かれ、鎮痛剤などの錠剤は1回の投与量単位で充填されている。頭痛がすれば自動販売機のボタンを押す。すると1回分の薬が出る。使用量はインターネットを通じて管理会社のサーバーに送られ、使用傾向などから必要量を判断、予測し、薬が不足しないようなタイミングで流通に出荷指示を出し、必要な薬が配送される。

ユーザーは新たに届いた充填キットを自販機にセットする。代金は“ネット的、電子商取引(EC)的”に処理される。薬の使用量などの傾向から、あなたやあなたの会社のヘルスマネジメントに対する助言、病気の可能性などがリポートされるようになるだろう。

この話から、「オフィスの文房具も同じだな」と思った読者は鋭い。ボールペン、インク、クリップなどの消耗品も全く同じ構造で解決できる。何よりもいままでと大きな差があるのはビッグデータ解析で、オフィスのボールペンの在庫がなくなる少し前に配達されることだ。

「インダストリー4.0」がもたらす人材不要の世界

インダストリー4.0も含め、あらゆるものがネットにつながるIoT(Internet of Things)の世界には、有名な笑い話がある。「コピー機の修理に伺いました」とサービスマンがやってくる。「頼んでいないし、壊れてないよ」とあなた。「ええ、明日壊れるので今日きました」。これはコピー機に多くのセンサーが装備され、データがサーバーに送られることによって使用量などのビッグデータが解析され、明日の故障を予測して人を派遣した、という意味なのだ。

常備薬モデルでは、毎月薬をチェックしていた営業マンがいらなくなる。さらに既存の薬品流通も不要になる。“IoT常備薬”を開発、設置できる会社と流通がつながれば、既存プレーヤーはほとんど吹き飛んでしまう。

この程度のビッグデータ解析サーバーは、おそらく限りなく無料に近いコストか、利益シェアモデルで大きな負担なく利用することができる。サービスマンは定期巡回が不要になり、必要なときに訪問するだけなので、その数は限られるだろう。人工知能(AI)は人から仕事を奪うか、という単純な問いかけに終始していてはいけない。あらゆるものが複合して、われわれの仕事を不要にしていくのだ。

語り手

代表アイコン
株式会社ビズライト・テクノロジー
代表取締役社長 田中 博見
1962年北海道旭川市出身。
大手家電メーカー系の工場でファクトリーオートメーション分野に従事したのち、コンピュータ業界へ。 8ビットから16ビットマイコン時代、ハードウェア設計からファームウェア開発までを経験。 その後はLINUXをベースとしたWEBソリューションに注力すると同時に、IPOを経験すると、 ECサイトの売上向上のためのビッグデータ解析や、BPRなど経営コンサルタント的な活動が増えている。 現在もっとも興味があるのはフィジカルコンピューティング。
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