田中博見講演『オープンソースハードウェアの潮流と最新動向』

み込み技術からエッジコンピューティングまで、IoTを加速するソリューションの最新トレンドを発信する「組込み総合技術展」および「IoT 総合技術展」(ET/IoT Technology 2017)が11月15日~17日、パシフィコ横浜で開催されました。出展企業数400社以上、来場者数延べ2万5千人と、連日の大盛況となったこのイベント。展示会場内メインステージで行われたオープンステージ(事前登録なしで聴講できるプレゼンテーション)で、ビズライト・テクノロジー社長・田中博見が『オープンソースハードウェアの潮流と最新動向』について講演を行いました。その講演内容についてご紹介します。

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オープンソースハードウェアの流れ

Linuxのようにソースコードを公開して無償で利用できるソフトウェアをオープンソースソフトウェア(OSS)と呼びますが、同じように回路図などの情報が公開されているハードウェアをオープンソースハードウェア(OSH)といいます。しかし、ハードウェアにはプリント基板があってLSI(大規模集積回路)が搭載されている以上、ソフトウェアのようにすべて無料にはなりません。それでも極めて安い価格で提供されています。

代表的なOSHのひとつに、Arduino(アルディーノ)という8ビットのCPUボードがあります。イタリアが発祥のArduinoは、子どもたちをものづくりに回帰させようという教育用として普及しており、世界中で200万台以上が出荷されています。クローンも含めると、400万台くらい存在するのではないかといわれています。

もうひとつは、本日の話のメインでもある、Raspberry Pi。みなさんの机の上にも1個や2個、転がっているかもしれません。Linuxに対応した32ビットのCPUで、イギリスが発祥のRaspberry Piは、Arduinoと同じように教育用として開発されました。ターゲットは大学生です。

最近では、Windows10のIoT Coreも動作すると発表されています。世界中で1,100万台以上の出荷実績を持っていますが、1,100万台というと、PCからサーバからすべて入れても一番売れているボードなのです。これ以上出荷されているボードがないということは、重要なファクターのひとつになると思います。

従来の開発の流れ

IoTのゲートウェイのようなデバイスを開発する立場からお話します。

CPUボードを一から設計するときに重要になるのは、開発費用に見合うマーケティングの予想がついていて、その資金投入能力も持っている、開発陣の人材も確保している、というようにすべてがそろっていることです。しかし、すべてをそろえることは、ほぼ不可能といっていいでしょう。もうひとつ大事なのは、開発期間です。とにかく急いでプロトタイピングをつくらなければならない。そうなると、汎用の産業用シングルボードコンピュータ(SBC)を採用しようという流れになるかと思います。

いよいよプロトタイピングを開始する段階になったときも、さまざまなハードルがあります。まず、どのようなOSが動作するのか、入出性はどうなのか。実績データを入手して、あたりをつけます。次に、CPUのパフォーマンス検証があります。使用したいデバイスのドライバはあるのか、さらには、開発環境の構築もしなければいけません。

このプロタイプの前後の期間が長く、これまで相当な時間を取られていたのです。場合によっては、1ヶ月や2ヶ月ではすまず、何ヶ月もかかるという状況でした。

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なぜOSHへの期待が高いのか

昨今はOSHを産業用で使えないか、という声が増えてきています。それはなぜか。

まずボードの入手が簡単にできること。たとえばRaspberry Piは通販でもどこでも購入が可能ですから、2日もあれば手元に届きます。また、開発環境も整っています。基本的にモジュールをかたまりでダウンロードして、コンパイラまですぐに展開できます。

もう一点は、先ほどお話したような、パフォーマンスのあたりをつけやすいこと。関連情報がインターネットで手に入りやすいのです。OSHの半数は企業で使われていますが、半数のユーザーはホビイスト(コンピュータ愛好家)。愛好家の人たちはいろんな情報をオープンにしていくわけです。これがクローズドな環境になると、全部、何らかの業務で使われているため、企業秘密になってしまい、情報がオープンになりません。

これはOSSと同じことがいえると思うのです。20年前にOSSを使ってサーバ構築しましょう、といったら怒られました。誰が責任を取るのか、という理由です。でも今はアマゾンでもグーグルでもOSSのLinuxベースで動いていますね。

それから、Raspberry Piはかなり強力なGPUを積んでいて、動画を流すパワーも持っています。これは意外に重要なポイントです。ディスプレイポートが付いていて、フルハイビジョンの動画をそれなりの速度で動かせる産業用のPCボードはほとんどありません。

プロトタイプからそのまま現場へ

ところがエンジニアの方が上司にOSHを「使っていいですか」と聞くと、「何かあったらどうするの?」という返事が必ず返ってきます。それはつまり、OSHは産業用に使える信頼性があるのか、ということです。

結論から申し上げますと、Raspberry PiやArduinoはそのままでは使えません。産業用のPCとして現場に導入すると、トラブルだらけになってしまいます。そこで私どもは、Raspberry Piで開発したプロトタイプをそのまま現場で使えるというコンセプトで、BHシリーズを提供しています。

Raspberry Piの一番の弱点は、電源を抜くとOSのエリアが全部クラッシュしてしまう点です。しかし、使用する現場では正しくシャットダウンをしてくれるわけではないですし、IoTのゲートウェイはいつ停電になるかわかりません。これに対応するBHシリーズでは簡易のUPS機能を搭載しており、電源操作をするとCPUに割り込みをかけて正しいシャットダウンをする機能を持っています。

Raspberry Piのもうひとつの弱点は、電池でバックアップされた時計の機能がないことです。BHシリーズでは、この部分も機能を追加しています。また、単体では結構ノイズに弱いといった点も対処をしています。

BHシリーズでもう一点、8ビットのArduino互換CPUボード(BiZduino)があります。こちらはWi-Fiモジュールが入っていてそのままネットに接続することができます。

OSHを用いたIoTの事例

採用例はいろいろあります。

サウンドテーブル。音の出るIoT家具ということで非常に話題になっています。

デジタルサイネージ。デジタルサイネージは構築が簡単そうに思われていますが、実は稼動条件が非常に過酷なため、PCを使ったらうまくいきません。

最近の事例では、WAmazing株式会社のインバウンドプラットフォーム事業があります。日本中の空港に外国人観光客向けの無料SIMカードの受取機がありますが、これも私どものハードウェアで実現されています。

それから、過酷なところでいきますと、工事現場向けもあります。まさに汎用のIoTゲートウェイですので、あらゆる場所で使われているのです。24時間2年以上動いている案件も、続々と出てきています。全体では数千台出荷していますので、安心してお使いいただける環境になってきたように思います。

 

OSHがIoTビジネスを加速させる

最後になりますが、IoTは速くビジネスモデルを立ち上げて、速く動かすことが先決です。信頼性に関しては、どんなボードを使ってもついてまわる話ですし、誰かが保証しなければいけない。そのときにOSHだからダメと決定づけるのは、少し違うのではないか思います。もちろん、そのままでは使えませんが、私どものソリューションを使っていただければ、明日からでも動かせるIoTの場面がもっと増えると思います。みなさんもIoTのビジネスを加速させていただきたいと思います。

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語り手

代表アイコン
株式会社ビズライト・テクノロジー
代表取締役社長 田中 博見
1962年北海道旭川市出身。
大手家電メーカー系の工場でファクトリーオートメーション分野に従事したのち、コンピュータ業界へ。 8ビットから16ビットマイコン時代、ハードウェア設計からファームウェア開発までを経験。 その後はLINUXをベースとしたWEBソリューションに注力すると同時に、IPOを経験すると、 ECサイトの売上向上のためのビッグデータ解析や、BPRなど経営コンサルタント的な活動が増えている。 現在もっとも興味があるのはフィジカルコンピューティング。
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