AIを用いた技術継承その問題点と解決策(前編)

製造業や建設業、農業など、いわゆる一次・二次産業といわれる業界では、熟練作業者の技術を次の世代に継承していくことが急務になっています。しかし、人手不足や技術継承には時間がかかることから、思うようには進んでいません。そこで最近はこの対策として、テクノロジーを活用した取り組みが行われるようになりました。将来的に人手不足による技術継承の問題は解消され、短期間で熟練作業者と同様の技術を身に付けたり、継承したデータを基に精度の高い製品を自動で作り出したりすることができるようになるかもしれません。

前編では、一次・二次産業における技術継承分野へのテクノロジーの導入について、まずは農業分野を取り上げて株式会社ビズライト・テクノロジー代表取締役社長田中博見が解説します。

農業部門の後継者問題と取組み

農業の後継者問題というのは今に始まったことではありません。取組みの遅れにより農業の担い手は60代、70代が中心になり、事業継承は待ったなしの課題になっています。TPPなど農産物自由化の流れが進む中、農業経営は厳しい環境にさらされていますが、それ以前にそもそも農業の担い手がいなくなってしまうという大問題があるわけです。

しかも、今までの農業は家族経営が一般的で、親から子への世襲継承が原則としてありました。そのため、後継者は親の手伝いをしながら技術や知識、ノウハウを体で学ぶのが当たり前でした。つまり、農業技術は暗黙知や経験則のままマニュアル化されておらず、後継者育成のノウハウも無いままで来てしまっています。したがって、運よく後継者が見つかっても、効率よく農業技術を身につけて、すぐに一人前の農家として独り立ちすることは非常に難しいわけです。

そうした厳しい現状を踏まえて、ICTを用いた国や民間企業によるさまざまな取組みが始まっています。

農水省が進めるAI(アグリ・インフォマティクス)

農水省は2009年に設置した「農業分野における情報科学の活用研究会」(AI農業研究会)での検討を踏まえて、AI(アグリ・インフォマティクス)農業というAI(人工知能)を活用した新しい形の農業を推進しています。

具体的には、センサーを用いて作物の生育状況に関する情報や温度、湿度といった環境情報を自動モニタリングするとともに、経験豊富な農家の「気づき」や「判断」といった定性情報も入力します。データベースに蓄積されたこれらの膨大な情報をAIが解析して、農家に行うべき作業をアドバイスするというものです。この一連のプロセスを繰り返し行うことでデータが蓄積し、AIの判断の精度が自律的に向上していきます。

今までの農業は、篤農家の勘や経験といった暗黙知に依存していたわけですが、これをAIによって「見える化」することによって、農業従事者の技術向上、あるいは新規参入者の農業技能習得に活用していこう、という施策です。

 

ベンチャー企業による就農プラットフォームの取り組み

民間の取組みを一例あげると、SEAKという農業ベンチャーが神奈川県の藤沢市を拠点に就農プラットフォームLEAPという取組みを行っています。今年に入って3億円の資金調達を行ったことでも話題になりました。

先に述べたように今までの農業は家族経営を基本としていたので、新規就農者に対する支援は遅れており、さまざまなハードルがあります。これに対して、技能習得などの就農準備、農地の取得、施設や機材の購入、さらに栽培、販路の開拓という5つのハードルにアプローチしてワンストップで就農支援を行っています。

LEAPでは野菜のストレスに主眼を置いたProbiosisという栽培手法を用いて、農業未経験者でも再現可能なトマトやキュウリのハウス栽培手法を確立。これを新規就農者に展開して「ゆる野菜」というブランド展開を行っています。

この施策でも農地に設置したセンサーで、リアルタイムでデータを取得・収集する栽培管理システムを構築して、農作業のバックアップを行っています。

農業分野における技術継承の重要ポイント

農業は後継者不足と言いながら、国をあげて地方創生が取り組まれる中で都会出身の若者の中にも意欲のある新規就農希望者が現れています。そうした若者にスムーズに技術継承を行うことが課題です。

彼らのために行政などが農業学校のようなものを用意していますが、「美味しい野菜をつくる」「収量を増やす」といった農業に付加価値をつけるところまでは教えることができません。こうした部分は農家に受け継がれてきた暗黙知や経験則の中にあって、誰にでも教えることができる形式知の形になっていません。

センシングによるデータ収集の重要性

今まで勘や経験で行われていたことを「見える化」して形式知の形にする。そのことが農業の技術継承の第一歩になります。そのためには、センシングによるデータ収集の役割が非常に重要になります。

これまでも農業のICT化として温度や湿度などをセンサーで取得する取組みはありました。しかし、これからは情報を収集、保存するだけでなく、AIを活用して熟練した農家の技能を解析し、新規就農者への技術移転を行うとともに農作業の省力化のためのロボット作業への適用などを行っていく必要があります。

ある高齢の農家は秋口に関節が痛くなると刈り取りの準備を始めるという話を聞いたことがあります。これは、温度や湿度の変化を体で感じる経験知の一種ではないかと思うのですが、おもしろいのは準備を始める日と刈り取りを始める日には数日のギャップがあるということです。つまり、単純にその日の気温と湿度を指標にしただけでは正しい刈り取りの日は分からないわけです。

このように暗黙知の世界は非常に複雑で、単純に形式化することには限界がありそうです。もしかすると農場の温度・湿度のような直接的なデータではなく、間接的なデータが判断の重要な役割を果たしているかもしれないのです。

AIの活用を進めていくために

形式化が困難な暗黙知を暗黙知のまま活用することは、AIが得意とするところです。そして、AIに入力する多種多量のデータ取得を支えるのがセンサーの役割です。

また農作業の合間にデータを手入力するのは困難ですし、必要なデータ量が増えれば人手で入力することは不可能になります。その意味でもセンサーを用いたデータ収集は大前提になります。

つまり、センサーからデータを取得するだけでなく、そのデータをクラウドに蓄積しAIに学習させるという一連のシステムが重要になってきます。ハード、ソフト両方の面で多くの経験と実績を持ち、IoTとAIに関わる機器やシステムの開発に対応できるビズライト・テクノロジーは、この点においてトータルでサポートできます。また、Arduino互換のIoT向けボードBiZduinoと、Raspberry Pi搭載IoTゲートウェイBHシリーズを提供しています。

「匠」の技術をデータ化する重要性

農業分野の技術継承では、今までの家族経営を前提とした農業で暗黙知として継承されてきた技術を「見える化」して汎用的に使えるようにすることが重要です。そのためには、センサーによって取得したデータをAIで分析して活用することで経験の浅い農業者へ「匠の技」を継承していくことが必要になります。さらに、そうして得られた知見をロボットや機械に投入して農作業を省力化していきます。今後、そうした流れはどんどん進んでいくと思われます。国をあげて地方創生が叫ばれ、新規就農に関心を持つ若者が増えている今が最後のチャンスではないでしょうか。

参考:

AI(アグリ・インフォマティクス)農業について|農林水産省

LEAP|SEAK

語り手

代表アイコン
株式会社ビズライト・テクノロジー
代表取締役社長 田中 博見
1962年北海道旭川市出身。
大手家電メーカー系の工場でファクトリーオートメーション分野に従事したのち、コンピュータ業界へ。 8ビットから16ビットマイコン時代、ハードウェア設計からファームウェア開発までを経験。 その後はLINUXをベースとしたWEBソリューションに注力すると同時に、IPOを経験すると、 ECサイトの売上向上のためのビッグデータ解析や、BPRなど経営コンサルタント的な活動が増えている。 現在もっとも興味があるのはフィジカルコンピューティング。
記事の内容に関する質問、お問い合わせはこちらへ!

関連記事